マネジャーになっても結局、今までと変わらず、
マネジャーとして具体的に何をどうしたらよいかわからないと不安を感じている新任マネジャーの方。
マネジメント研修を外部講師を招いて行っているが、
効果に疑問を感じている教育担当の方。
社長から管理者教育を指示されたが、
何が効果的なのか、どう考えたらよいのか情報が多すぎて迷っている初めて教育を実施する企業の担当者の方。
このテーマについての解説は数多くありますが、情報を集めるほどに相互に矛盾していたり、解説の抽象度レベルがまちまちでわかりにくいという声を聞きます。
私は30年上、500社以上の企業様に人事教育分野で関わらせていただき、マネジメント研修の受講者は3万名を超えていますが、現実的にどのようにしたらプレイヤーからマネジャーにシフトしていけるのか、指導する側も、当事者も戸惑っている様子をよく目にします。
プレイヤーからマネジャーへと行動と思考の習慣を転換するには、内容を理解し経験していけば自然とできるようになるというものではありません。
この記事では矛盾する説明を整理しつつ、具体的にどのようにマネジャーの仕事と役割を実践できる様になるのかを、できるだけ簡潔に説明いたします。ご一読いただければスッキリ理解でき、実践の具体的なプランがイメージできます。
また、教育担当の方にとっても、研修企画の重要なポイントが明らかになります。
マネジャーの仕事と役割を明確にし、プレイヤーからマネジャーとしての行動と思考の習慣へと、どのように転換したらよいか、参考にしてください。
1.マネジャーの仕事と役割
マネジャーとリーダーは違い、リーダーが決めたことを受けて実行するのがマネジャーである、という説明が散見されます。
この説明を絶対的な間違いとは言いませんし、リーダーシップ論の文脈の中で実際にそのように説明されているものもあります。
しかし、少なくとも現代日本企業の現実とは乖離し混乱を招きます。
仮にマネジャーとリーダーが別だとしても、現実はマネジャーがリーダーの役割もし、更にプレイヤーの役割もこなさなければならないのが今の実態です。
マネジャーがリーダー的役割を放棄すれば、それは指示待ち、判断仰ぎマネジャーです。
これは、高度成長期のマネジャーに求められていた上意下達の役割です。
下は主体的に考える必要はなく、むしろ上意に従順に従わせるのがマネジャーでした。
日本は戦後官主導の政策で右肩上がりの成長を遂げていましたので、組織の中間管理職に限らず日本中が国の方針に従っていたとも言えます。
しかし、バブル崩壊後、企業が社員に求めるものは従順さから180度転換し、主体性を求めるようになりました。
従来の上意下達の経営は低調になり、各現場に分散している情報も広く共有した上で判断しなければならなくなりましたから、現場でそれぞれが得た情報から主体的に考え、発信し、社内でオープンな議論をする必要性が高まりました。しかし、発信すべき側も、提言を受ける側にも、未だに上意下達の風土、習慣が残っている組織も多いようです。
このような状況におけるマネジャーには、組織を活性化させ、組織学習を促進するハブ的役割が求められています。
しかし、前述したように現在はプレイングマネジャーであることが大半ですので、
一般的には、慣れないマネジメント業務よりも慣れたプレイヤー業務のウェイトが自然と高くなってしまいます。
典型例は、マネジメント不在のスーパープレイヤー率いるチームです。スーパープレイヤーは、人材育成を阻害する要因になることを認識しておく必要があります。
あるいはプレイイングが忙しく、マネジメント業務は、年中行事として制度上規定されている人事評価を何とか隙間時間でこなすのが精一杯というケースも少なくありません。
2.マネジャーの仕事の実際
これから慣れないマネジャーの役割を果たしていこうとするならば、雑音が入る業務時間以外で、じっくりと
マネジメント・プラン
を立てることを強くオススメします。
マネジメントの本質を一言で言えば、「よりよい将来を招き寄せること」です。
そのためには日々生起する問題にも対処しなければなりませんが、
それだけに100%忙殺されてしまったり、
プレイヤーとしての仕事を多くしてしまったり、ということでは
「よりよい将来を招き寄せること」の肝心な部分に着手することはできません。
「よりよい将来」とは、全社、自組織、自チーム、自分も含めた関係者各人、それぞれにとって、という意味ですから、
立場により描く「よりよい将来」は異なるでしょう。
しかしそれがバラバラなままであったり、不明確なままであれば、組織のエネルギーは分散し、大きな結果を手にすることはできないでしょう。
そのため、ハブとしてのマネジャーは、
まず自分なりに周囲の状況、情報、意見を分析した上で、
自らの意志としての考えをまとめ、それを発信し、
周囲との合意形成を促進する
必要があるのです。これが
一つ目のプランです。
「よりよい将来」…つまり、ビジョンの合意形成を、いつまでに、どのように、どのレベルまでするのかというプランです。
二つ目のプランは、一つ目のビジョンの合意形成のあとに着手するのが順当ですが、現実的にはそれが不充分であっても並行して行かざるを得ません。それは、戦略のプランです。
戦略と言っても難しく考える必要はありません。
簡単に言えば、「よりよい将来へ至る効果的な道筋」です。
1つの正解を求めるものではなく、様々な可能性を排除せずに検討し、最も効果的と思える
ものを上司や部下との合意を形成していく、ということです。
具体的には、中長期的な自チームの目標と、それに対するマイルストーンとしての各種目標です。
この設定をするためには、自チームのリソースを適切に把握する必要もあります。
各メンバーの強み、課題、それに対する本人の認識や、予算、時間などです。
三つ目は、特に短期的な目標達成に向けた役割分担と内外の協働体制の構想と合意形成です。
役割分担については、適材適所が基本になりますが、そればかりですと各メンバーの潜在能力を発掘し開発することはできず、恒常的に仕事の偏りが発生しますので、矛盾はしますが、効率的な目標達成と同時に人材開発(人的資産価値の向上)もできるようにすることが必要です。言い換えれば、現在の成果と将来に向けた準備の両立です。
そして自らの構想は、やはりメンバーとの合意形成を図って決定していきます。
まず、これら三つのプランをじっくり検討し構想しておくことが肝心です。
ぶっつけ本番で誰かと合意形成を図っても、よい結果は得られませんし、これらはその後のチーム活動を左右しますので、安易にその場しのぎのやりとりで決めてしまうことのないようにするのが懸命です。
3.実行のモニタリングと支援介入
さて、マネジメント・プランについて解説してまいりましたが、
これが、どの程度マネジャー自身が熟考した結果なのか、どれほど粘り強く上司と合意形成を図った結果なのかなど、
マネジャーのインサイドワークは部下からは見えにくい部分です。
しかし、プランニングや各所との合意形成レベルが低ければ、
実行段階で後手後手の調整や変更を余儀なくされますのですぐに露見します。
また、マネジメント・プランを入念に行っていたとしても調整や交渉などを要する場面があって当然ですが、マネジメント・プランを熟考した上で構想していれば、
・どこに問題が発生する可能性が高いか
・メンバーの誰の役割遂行で、どのような状況で、どのような支援を必要とするか
など、事前に予測ができますので、実行状況のモニタリングの勘所も掴んでおくことができます。
また、期中にこれができなければ、一般に制度上規定されている人事評価にも手こずることになります。
余談ですが、人事評価は規定されている時期(半期に1度または年に1度など)だけで行おうとしても、適切な評価、フィードバックは不可能ですし、本人自身の客観的な自己評価を促すこともできません。
人事評価も本人自身の自己評価も、最低でも月次決算を積み重ねていなければ、期末決算は不可能なのです。
さて話しを戻し、期中実行状況のモニタリングですが、
基準は各短期目標の達成進捗度です。
予定より早い、遅い、質がよい、悪いなど、その時点での結果に対する理由、原因を分析し、あくまでもメンバー自身が解決できるようにサポートします。サポートはマネジャー自身が行うばかりではなく、対象のメンバーと協働関係にあるメンバーが気づいて、自主的に支援することが理想です。何故ならばマネジャーの直接介入が恒常的になれば、メンバー各人の自律性、メンバー相互の自主的な協働関係、信頼関係の発展を阻害する恐れがあるからです。
ですからマネジャーは、メンバー相互の関係性も含めて全体を俯瞰し、適切な介入をする必要があります。
また、自分が仕事を巻き取って実施するというのは副作用のある最終手段だと認識してください。但し、それが必要な場合には逃げずに即行動することもマネジャーの責任です。
4.マネジャーとプレイヤーの両立はできない
以上がマネジャーの主要な仕事です。
- 状況の分析・検討をし(Check, Action)
- 構想をまとめ、合意形成を図り(Plan)
- 実行(Do)をモニタリングし介入する(Check, Action)
という、PDCAではなくCAPDの繰り返しです。
繰り返す度にマネジメント・プランにも磨きがかかり、チームメンバー各人の成長も組織としての学習も促進されます。
しかし、現在の多くのマネジャーは、もう一つ重要な役割=プレイヤーとしての役割も併せ持っていますので、
それを両立させる必要があります。
最終的に自らのプレイヤーとしての役割は、全て部下に権限委譲するのが理想です。
また、マネジャー自身も、各メンバーも、それぞれに成長する、という意識がマネジャーにないと、
マネジャーはメンバーの成長を阻害するスーパープレイヤー化する懸念があります。
何故ならば、メンバーが成長しなければ権限委譲できませんし、マネジャーが成長しなければマネジメントの役割を果たせないからです。
スーパープレイヤー化して部下からも上司からも頼られるようになったとしても、決してマネジャーとして成長しているわけではありませんので、おだてられても勘違いしてはいけません。
むしろ、「よりよい将来を招き寄せる」ということからは遠ざかっています。
スーパープレイヤーとして自他共に認めてしまえば、どうしても部下との競争意識が出やすくなります。
プライドとして負けられない、存在意義が薄らぐ、と。
しかし、本来人材育成は、自分を超えるぐらいに成長を促進することですから、
スーパープレイヤーとしてのプライドは邪魔になります。
プレイヤーとしてではなく、マネジャーとして存在を示せるようになることを目指しましょう。
また、今日明日の利益、成果も重要ですが、マネジメントとしては将来の成果に繋がる活動を重視しなければなりません。
人材育成の成果は、将来の成果の先行指標です。
もう一つ将来成果に繋がるのは、イノベーションです。
例えば3年後、5年後は確実に仕事の進め方、働き方は変化しています。その時になって瞬時に対応するのは不可能です。後追いではなく、むしろ、自ら変革を推進していけるようにマネジメントすることが不可欠です。
これらのマネジャーの仕事は簡単なことではなく、片手間でできることではありません。
しかし、自らマネジャーとしての役割を自覚し、自らの考えをマネジメント・プランの構想に込めCAPDを繰り返していけば、
マネジメント力も向上していきますので、それに合わせてマネジメントの幅を拡げてください。
また同時に、少しづつでもプレイヤーの役割は部下に権限委譲していきましょう。
いかだったでしょうか。
ここではマネジャーの仕事を「よりよい将来を招き寄せること」とし、
その具体的な内容は、マネジメント・プランで、
①ビジョン
②戦略
③役割分担と協働体制(組織化)を自ら構想し、
それぞれを上司やチームメンバーと合意形成を図り、
実行をモニタリングし、支援する、
ということでした。
プレイイング・マネジャーは両立を必要としますが、しかしどちらも中途半端になる懸念があります。
両立するには相当の実力を要します。
現実的には、プレイイングの仕事は部下へ徐々に権限委譲し、
自身としてはマネジャーとしての成長に合わせてマネジメントの範囲拡大と質的向上を図り、
最終的には、パフォーマンスを落とさずに専業マネジャーへシフトしていくのがよいでしょう。
今までプレイヤーだった方をマネジャーにするための教育では、
プレイヤーからマネジャーへと行動と思考の習慣をシフトさせていくプロセスを念頭に、
例えば新任管理職を対象にOffJTや定期的な課題、進捗フォローなどを企画し、
1回きりの長時間研修よりも、短時間でも一定期間複数回にわたってフォローできる内容とした方がよいでしょう。
新任管理者の皆さん、マネジメント・プランを自ら構想してみてください。
そして定期的に再検討しブラッシュアップし続けてください。
マネジャーとしての成長がそこに表れている筈です。
教育を担当されている皆さん、他の記事も併せて参考にしてみてください。
お困りのことがありましたら、時間はかかるかも知れませんが、できるだけ返信させていただきますので、お気軽にメッセージをお寄せください。
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