仕事の優先順位を疑う

仕事の優先順位づけは、マネジメントの入口です。
殆どの仕事の優先順づけに関する情報は、緊急度×重要度の二軸マトリックスで仕事を4分類すべきと解説されています。それらの解説はセルフマネジメント、タイムマネジメント、仕事マネジメントなど、一個人の観点で解説されています。言い換えれば、「個人のリソース配分を最適化する」ことが目的で、おおよそ下図のような解説がなされています。

緊急度×重要度

優先順位=緊急度×重要度

マネジメントの基本中の基本と言えるものですが、一個人の観点であっても実際はこれ程単純ではありません。というのも、多くの解説で優先順位づけをする”仕事”は、効率的な”処理スピード”や”処理量”を問題にしていますが、悩みの種は求められるアウトプットの”質”であったり、恒常化しているリソース不足などにあることが多いからです。そのため、効果性×難易度の二軸マトリックスで4分類することを推奨する解説もありますが、それだけですと今度は逆に”質”に偏向し過ぎるきらいがあります。ですから、二軸の2次元で表現できるほど単純ではないのが実態だと思います。

実態に沿わせるあまり複雑すぎて応用できなければ意味がありませんが、短絡すぎる判断もその弊害は大きいと思います。

では、どのようなアプローチが適切なのか、研修での実例なども交えながら検討してみます。


1.インバスケット研修におけるケース

よく新任管理職研修や登用試験で活用される「インバスケット」というプログラムがあります。ある状況設定の中で管理職のもとに様々な案件が舞い込み、限られた時間の中でそれらの案件に対してどのように対応するかが問われるものです。

専門企業から様々なケース教材が提供されていますし、当社でもご要望に応じてオリジナル教材を開発、提供しています。2020年にはオンラインで実施でき、演習が進むに従い状況が変化し、先に回答した前問の内容を変更できないという、よりリアルな状況を再現したプログラムも開発しました。

このインバスケット・プログラムの中で最もダメな対応は、案件の出題順に対応を検討し回答していく方法です。”出題順に自らのリソース(時間)”を割り当てていくということに何ら合理的な理由はありません。対応内容以前の問題です。

次にダメな対応は、表面的な緊急度の順に対応をしていくという方法です。案件を一通り眺めて優先順位をつけているのは、出題順対応よりは前進ですが、単に指定された期限の切迫度というだけで緊急度の判断をしてしまうことは、受動的な処理的対応と言わざるを得ません。期限とはいっても交渉余地があったり、交渉した方がよい結果を得られるもの、あるいは期限は迫っているが必ずしも対応が不可欠ではないものなど玉石混淆です。

そこで、もう一歩前進し、重要度の判断を加えるということになります。
しかしこの重要度という判断こそ曲者です。つまり、何をもって重要とするのか、ということが問題です。よく無自覚に自らの立場のみに直接的な影響があるものを重要であると判断する回答例があります。他の案件がなければそのように判断しても何ら問題はありませんが、限られた時間の中で全ての案件に対応できない可能性がある状況で、自らが率いるチームや会社全体に影響を及ぼす案件以上に優先してしまうというのは問題です。そこで重要度の中味が問題になります。


2.重要度とは

    • 今後の売上を大きく左右すると思われる大口顧客への対応
    • 最近多くなっているクレームへの対応
    • 不良債権化の懸念がある顧客への対応
    • 大口新規獲得に要する社内他部署への協力要請
    • 最近休みがちな社員への対応

など具体例を挙げれば様々な状況が想像できますが、重要度とは影響の大きさと考えてよさそうです。但し、一概に金額換算して評価すればよいというわけではないのが難しいところです。
また影響の大きさは、影響の強さ×影響の範囲と考える必要があります。
影響の範囲とは、影響が自チーム内にとどまるものよりも、組織全体、更には顧客などの外部に及ぶものの方を重要度が高いと判断するのが合理的です。
そして時間的範囲も同様に、現在にのみ影響するものよりも、将来に渡って影響を及ぼすと思われるものを優先することは理に適っているとする考え方です。
ところが影響範囲が小さくとも、自分に直接関わることや、今現在の眼前の問題をどうしても過大評価しがちです。反対に、外部のことや、将来のことについてはリアリティが薄れ公平な判断を阻害します。これは”緊急度”という判断軸を用いる際の留意点でもあります。


3.では、どうすればよいか

仕事を先の重要度×緊急度で評価する前に、
Willしたいこと(意志)、Canできること(能力)、Responsibility(役割)で分類するとハッキリしてきます。
個人事業主やフリーランスであればRの役割は、市場や顧客から期待されることと考えればよいでしょう。WCR

WCR10

○番号は一応の優先順位

図のWCR全てが重なった①の領域に全ての仕事が入っていれば何の問題もありませんので、次のステップで効果的な順番を検討するだけです。それ以外のケースについて検討する前に各領域について簡単に触れておきます。
各領域に分類される仕事への対応を検討する際の参考にしてください。

      • Wのみ:したいこと(意志)のみでBにもCにも重なっていない領域
        自分の意志のみがある状態ですから、すぐには実現しないものですが、将来どのようにしたら具現化できるかを中長期的に検討する必要がある仕事。但し、意志、想いの強さ、深さによってグラデーションがある。
      • Cのみ:できること(能力)のみでAにもCにも重なっていない領域
        今現在は発揮する場がない能力とみなしているが、他に活用できないかを検討する余地がある仕事。
      • Rのみ:役割(周囲から期待されている)のみでAにもBにも重なっていない領域
        期待はされているが、自身の意欲も能力も伴わないと思っている仕事。他者との協働など工夫を要する仕事。
      • WCR:全てが重なった領域
        全く問題なく取り組め、周囲も安心して任せられる仕事。更なる効率化や、他者指導にも貢献可能な仕事。但し、他の領域の仕事へのリソースが圧迫されないように留意する必要がある。
      • WR:期待される役割に自らの意志が伴う領域
        現状で能力が伴わないと考えられるが、取組む中で能力が開発されやすいと考えられる一方、多めの時間を投入したり、協力者を想定しておく必要がある仕事。
      • CR:期待された役割に能力が伴っている領域
        この領域は淡々とこなしていくことができる仕事。新たな能力開発の可能性は高くないが、更なる効率化など挑戦の可能性はある仕事だが、他の領域の仕事へのリソースが圧迫されないように留意する必要がある。
      • WC:意志と能力の両方が伴っている領域
        この領域にある仕事は、現状役割としては期待されていないが充分にアウトプットできる可能性が高い仕事であるから、主要な役割を果しても尚余力があれば積極的に引き受けたい仕事。

この分類は、それぞれの仕事に対する自分の意志(≑モチベーションの高さ)、能力(≑実現可能性の高さ)、自らの役割あるいは責任を明確にするものです。全てが処理しなければならない仕事(=義務に近い役割)ならば、緊急度×重要度の評価だけで済むかも知れませんが、人間は機械ではありませんので、仮に緊急度×重要度の合理的判断がされた優先順位がつけられたとしても、それを遵守して仕事を進められるとは限りません。

そこで特に重要なのが、自らの意志、つまり自分はどのようにしたいのかを明確にすることです。例えば先に挙げた具体例で言えば、”今後の売上を大きく左右すると思われる大口顧客”や”不良債権化の懸念がある顧客”、あるいは”最近休みがちな社員”に対して、上司や周囲がどのように考えているかではなく、自分自身はどのようにしたいと考えているのか、ということです。保有能力や期待される役割の観点も重要ですが、強い意志があるところに能力も役割も引き寄せられてきます

この分類から当面実現困難なWのみ、Cのみの領域を除いて、緊急度×重要度の評価をします。

WCR12

但し、Wのみ、Cのみの領域は直近の仕事の優先度を検討する上では除いて考えますが、自らの将来を検討する際には検討が不可欠な領域ですから、無駄にはなりません。

WCR13

仕事の分類図

緊急度×重要度は二軸マトリックスが見慣れていると思いますが、ここではベン図で表していますが、同様に四領域に分割されています。
・緊急:緊急度高
・重要:重要度高
・双方の重なる部分:緊急かつ重要
・周辺:緊急でも重要でもない部分
周辺以外の各部分に先の分類がそれぞれ入っています。

○番号はこの中での一応の優先度です。WCRの全てが重なった領域が①、WCが重なりRが重なっていない領域が③、それ以外は全て②です。つまり、Rの領域の中で、全てが重なった①以外は内容を吟味せずに優先度を判断することはできません。但し○番号の順番全般、絶対ではありませんので基本的には個別な中味を吟味した上で判断するのがよいと思います。

また全体としても、緊急かつ重要の部分に入っている①が最優先と考えがちですが、必ずしもそういうケースばかりではありませんので、完成した『仕事の分類図』全体を眺め、仕事間の関連性なども考慮して判断するのがよいでしょう。


4.仕事ができる人はこの判断を自然にしている

ここで言う”仕事ができる人”というのは、単に効率的に抱えている仕事をこなすだけでなく、中長期的展望と人々や物事の影響関係、自身の行動の影響などを考慮して仕事をしている人のことを指しています。そのような人々は、私がここでその思考の理屈を説明していなくても実践しています。

これを習慣化するにはコツがあります。コツを掴めば苦もなく自然にできます。それは…

自らの意志を明確にすることです。
自分はどうしたいのか、自分はどうなりたいのかを
ハッキリさせることです。

それだけです。難しいことはいりません。これは精神論ではありません。よくも悪くも自らの意志がハッキリしていなければ(先のベン図で言えば、Willの円が小さかったりぼやけている)、何ごとにおいても判断はできません。自らの意志のもとに前進していれば、仮に間違った判断をしたとしても、それを修正するように学習します。その経験や学習の過程で、
・自分は一体何をしたいのだろうか
・どうしたいのだろうか
・この仕事には一体どのような意味があるのだろうか
・みんなはどのようなことを期待しているのだろうか
・自分にはそれができるのだろうか
・これを必達するためには誰の協力が必要だろうか
など、自分の意志で目指すところへ辿り着くために何度も自問自答を繰り返しているはずです。このような自問自答の山をある程度体系的に整理してみると、ここで説明したようなことになるに過ぎません。
ですから、仕事の優先順位を検討する際に、緊急度×重要度や効果性×難易度では絶対にダメだと言いたいわけではありませんし、ここで解説した枠組が絶対だという気もありません。自ら考えることなく無批判に受け容れてしまうことにこそ危うさを感じてしまいます。様々な情報が溢れていますが、いずれも自ら考えるきっかけにして欲しいと思います。

そうは言っても忙しい時代ですから、なかなか難しいことですので、もう一つコツを提案させていただきます。それは…

1日の始まりに5分だけ静かにじっくり自問自答する

ということを1週間だけでも続けてみてください。
余裕があれば考えたことを文字で記しておくと尚よいでしょう。常識とされていることに対して敢えて疑問を投げかけるなど自問自答の内容は何でも構いません。但し、他の情報を参照したりせず、自らの考えをアウトプットするようにしてください。この自問自答については、機会がありましたらコラムにします。
この記事についてのご質問やその他マネジメントに関するご相談など、お気軽にお問い合わせください。

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